Guatemala
Cafe Colis Resistencia
グアテマラ・マタケスクイントラ周辺で活動する生産者グループ───地元では Cafe Colis Resistencia(カフェ・コリス・レジステンシア) として知られています───は、Semillaが協働する生産者グループの中でも、おそらく最も厳しい困難に直面しているコミュニティです。
私たちがこのグループの存在を初めて知ったのは、カナダ ビクトリアのロースター Bows Coffee RoastersのDrew Johnson氏を通じてでした。
Drewは、このグループのリーダーのひとりである Alex Reynoso が直面していた困難についての記事を読み、その状況に深く心を動かされます。
彼は、彼らと連絡を取るためにあらゆる手段を尽くし、何とか繋がりを築こうと奔走しました。
そして実はSemilla Japan代表の松村も、かつてBows Coffee Roastersでバリスタとして従事していた時、このコミュニティの存在や、彼らが直面している現実について初めて知ったのも、Drewを通じてのことです。
そして、その出会いは後にSemilla創業者のBrendanとの繋がりを生み、現在の活動へと続く大きなきっかけとなりました。
その目的はただひとつ。
彼らの声に耳を傾け、必要な支援を届けること。
こうして生まれた繋がりが、後にSemillaとCafe Colis Resistenciaとの関係へと発展し、現在に至るまで続く協働のきっかけとなったのです。
"Quietly Built, Loudly Opposed"───築かれた鉱山、土地を守るレジスタンス。
シンカ(Xinka)先住民族にとって、エスコバル(Escobal)銀鉱山の存在は、文字通りにも象徴的な意味においても、常にその暮らしの背後に影を落としています。
この鉱山は、カナダに本拠を置くPan American Silverによって所有・運営されており、世界で2番目の規模を持つ銀鉱山とも言われています。
しかし、この鉱山は地域住民との十分な協議も、先住民族の同意もないまま建設されました。
これは、先住民族の権利を保障する国際的な枠組みである 国連先住民族権利宣言(UNDRIP) の理念にも反するものです。それにもかかわらず鉱山開発は進められました。
しかし現在、この鉱山は操業停止状態にあります。
その採掘ライセンスは一時的に停止されており、それを実現したのはシンカの人々による長年にわたる組織的な抵抗運動でした。
シンカの人々は、自らの歴史を、ラテンアメリカ征服の時代から続く植民地主義や領土侵害への抵抗の歴史として語ります。
そしてエスコバル鉱山への反対運動も、その歴史の延長線上にあるものです。
この地域におけるカナダ企業による資源開発への関与は広く記録されており、その歴史は少なくとも20年以上前まで遡ります。
エスコバル鉱山計画そのものは2000年代後半に具体化されました。そして、その計画が明らかになると、地域住民たちは2011年から2012年にかけて複数回の住民投票や協議を実施しました。
この鉱山には莫大な埋蔵量が見込まれており、企業にとっては極めて大きな利益を生み出す可能性があります。しかし、その利益を得るのは企業である一方、環境破壊や生活への影響といったリスクを負うのは地域住民たちです。
家族の暮らしや地域の水資源、そして彼らの生活を支える自然環境への影響を考えれば、多くの住民が反対したことは決して不思議ではありません。
実際に行われた複数の住民投票では、いずれも少なくとも93%以上の住民が鉱山計画への反対を表明しました。しかし、鉱山が最終的に建設された San Rafael Las Flores(サン・ラファエル・ラス・フローレス) 市では事情が異なりました。
この自治体では住民投票そのものが地方自治体によって阻止されたのです。
そして後になって、その自治体関係者の一部が、Escobal鉱山およびその現地法人である Minera San Rafael から利益供与を受けていたことが明らかになりました。
こうした経緯は、なぜシンカの人々がこの鉱山を単なる環境問題としてではなく、自らの土地、文化、そして自己決定権を守るための闘いとして捉えているのかを理解する上で重要な背景となっています。
この時期には、鉱山開発に伴う環境への影響評価が不十分であったとして、エネルギー鉱山省に対して合計280件もの異議申し立てが提出されました。その理由のひとつが、環境調査の規模と内容にありました。
例えば、この規模の鉱山開発における一般的な採掘ライセンス審査では、有害物質が土壌へ浸出していないことを確認するため、およそ5,000件規模の土壌サンプリングが行われることが期待されています。
しかしエスコバル鉱山のケースでは、実際に採取・分析された土壌サンプルはわずか14件に留まっていました。この極端な調査不足に対して、多くの住民や団体が強い懸念を示したのです。
その後も、鉱山周辺地域では複数回にわたる水質調査が実施されました。その結果、鉱山近隣の水源からは高濃度のヒ素が検出されたと報告されています。
一方で、同じ地域の他の水源は国内でも特に水質が良好な場所として知られており、非常に高い水準の清浄性を保っています。
このことから、地域住民や反対運動を続ける人々は、鉱山開発と水質汚染との関連性について強い懸念を抱き続けています。
そしてこうした環境面での不安もまた、シンカの人々が長年にわたり鉱山計画へ反対してきた大きな理由のひとつとなっているのです。
2013年12月、グアテマラ憲法裁判所は、国連先住民族権利宣言(UNDRIP)の理念に基づき、当時の鉱山所有企業であったTahoe Resourcesに対して、先住民族コミュニティとの正式な協議を実施し、その同意を得ることが義務であるとの判断を示しました。
つまり、本来であれば地域住民、とりわけ先住民族であるシンカの人々との十分な協議と合意形成が行われなければ、プロジェクトは進められるべきではないと裁判所が認めたのです。
しかし、こうした明確な反対の意思表示や数々の記録が存在していたにもかかわらず、また国際的な先住民族の権利基準を軽視する形で、エスコバル鉱山は2013年に採掘ライセンスを取得してしまいます。
そして翌2014年には操業が開始されます。
住民投票で示された圧倒的な反対。環境への影響評価に対しての数百件に及ぶ異議申し立て。
そして憲法裁判所による先住民族との協議義務の指摘があったにもかかわらず、プロジェクトは推し進められてしまったのです。
この出来事は、後にシンカの人々が「自分たちの意思が無視された」と強く主張する大きな根拠のひとつとなりました。
彼らにとってエスコバル鉱山の問題は単なる環境問題ではありません。
それは、自らの土地に関する意思決定権、先住民族としての権利、そして地域社会の未来が、十分な合意形成のないまま外部の経済的利益によって左右された出来事として記憶されているのです。
”Gaining Traction, Maintaining Momentum”───確かな前進。そしてその先。
しかし、彼らの闘いが見過ごされてきたわけではありません。
2017年6月、グアテマラ憲法裁判所はシンカ議会の訴えを支持し、地域住民との適切な協議が完了するまで、エスコバル鉱山の操業ライセンスを停止する判断を下しました。
そして2018年には、この判断がグアテマラ最高裁判所によっても支持されました。
ライセンス停止の決定は、当時鉱山を所有していた Tahoe Resources に大きな打撃を与えます。同社の株価は急落し、その影響は極めて深刻なものでした。
最終的にTahoe Resourcesは鉱山権益を売却せざるを得なくなり、その権利は Pan American Silver へと引き継がれることになります。
Pan American Silverは世界最大級の銀採掘企業のひとつです。
同社はエスコバル鉱山から得られる莫大な利益を見込んでおり、短期的な損失や反対運動による遅延は、将来的な収益によって十分に回収できると考えていることを隠していません。つまり、彼らは“いかなる反対運動も最終的には乗り越えられる”という前提で行動しているように見えます。
実際、同社はすでにシンカ議会を介さずに鉱山への支持を集めようとする動きを進めており、その中には違法あるいは不正確な協議が含まれていると批判されています。
地域住民の賛同を得たかのような印象を裁判所へ示すために、正規の先住民族代表機関を排除した形で手続きを進めようとしているのです。
それでもなお、シンカの人々は希望を失っていません。
シンカ議会を率いる Kelvin Jimenez は、コーヒー生産者であり弁護士でもあります。
長年にわたる闘いの中で、多くの困難や挫折を経験してきたにもかかわらず、彼は今も前向きな姿勢を崩していません。
彼は、この運動が単なる鉱山反対運動ではなく、シンカの人々が自らの権利と未来を守るための長い歴史の一部であると考えているのです。
彼らにとって大きな成果のひとつは、エスコバル鉱山への抵抗運動が、グアテマラ政府にシンカ民族の存在を正式に認めさせるきっかけとなったことです。
それまでグアテマラ政府は、シンカ民族の存在そのものを否定、あるいは認めようとしてきませんでした。
しかし、鉱山開発を巡る長年の闘いの中で、シンカの人々は自らの歴史、文化、そして先住民族としての権利を粘り強く主張し続けました。
その結果、この鉱山に対する抵抗運動は、シンカ民族がグアテマラ国家によって公式に認められる大きな転機となったのです。
これは彼らが1996年から求め続けてきた目標でもありました。
つまり、エスコバル鉱山への反対運動は単に一つの開発計画を止めるためのものではありませんでした。
それは、自らの存在を認めさせ、歴史の中で見過ごされてきた先住民族としての権利と尊厳を取り戻すための闘いでもあったのです。
Kelvin Jimenezたちが守ろうとしているのは、単なる土地や水源だけではありません。
それは、彼らが”Xinka”として生き続ける権利そのものなのです。
鉱山への反対運動が始まった当初、グアテマラ政府はシンカ議会の指導者たちの拘束を求める情報を報道機関へ公表しました。しかし皮肉なことに、この行為は結果として、政府自身がシンカ民族の存在を公に認めることにも繋がりました。
それまでシンカ民族は、国家による統計や公的な記録の中で十分に認識されておらず、その存在自体が軽視されてきました。
ところが、政府がシンカ議会の指導者たちを名指しで追及したことで、彼らを『存在しない民族』として扱い続けることが難しくなったのです。
その結果、シンカ民族は国勢調査から排除されることができなくなりました。そして、その後の調査によって、自らをシンカ民族であると認識する人々の数は大幅に増加しました。
記録上のシンカ人口は、かつて約16,000人とされていましたが、2018年には約240,000人へと増加しています。
もちろん、これは短期間で人口が急増したという意味ではありません。
むしろ、それまで公的に認識されてこなかった多くの人々が、自らのアイデンティティを表明し、シンカ民族として正式に数えられるようになったことを意味しています。
つまり、鉱山への抵抗運動は土地や環境を守るための闘いであると同時に、長年見えない存在として扱われてきたシンカ民族が自らの存在を社会へ示し、その歴史と権利を取り戻す過程でもあったのです。
シンカの人々による抵抗運動は、グアテマラにおいて重要な法的先例(national legal precedent)を生み出しました。
憲法裁判所と最高裁判所がシンカ議会の主張を支持したことで、シンカ民族は、資源開発プロジェクトに関する新たな憲法上の基準を確立した先住民族として位置づけられることになったのです。
この判決によって、鉱山やその他の資源採掘事業を進める際には、影響を受ける先住民族コミュニティとの正式な協議プロセスを経る必要があるという原則が、法的に強く認められることになりました。
つまり、開発事業者や政府は、地域住民や先住民族の意思を無視して一方的にプロジェクトを進めることができなくなったのです。
この成果は、シンカ民族にとってだけでなく、グアテマラ国内のすべての先住民族にとって大きな意味を持っています。
実際、グアテマラ人口の半数以上を占めるとされるマヤ系先住民族でさえ、過去にはこのような法的基準を確立することはできませんでした。
その意味で、シンカの人々によるエスコバル鉱山への抵抗運動は、一地域の環境問題を超え、グアテマラ全体における先住民族の権利保障の歴史に残る重要な転換点となったのです。
彼らの闘いは、単に鉱山の操業停止を目指したものではありません。
それは、自らの土地と暮らしを守る権利、そして先住民族が意思決定に参加する権利を法的に認めさせるための闘いでもありました。
そしてその成果は、シンカ民族だけでなく、これから先の世代、そして他の先住民族コミュニティにも受け継がれていく重要な遺産となっています。